
「相続」という言葉はよく聞くかもしれませんが、実際に相続手続きを行うことは人生でも数少ないことであり、相続手続きに慣れている方は少ないはずです。
相続手続きが必要という事は、両親、兄弟姉妹、子供、配偶者などの身近な方が亡くなった場合であり、精神的にも非常に辛い状況だと思います。
そんな精神状態の中でも様々な「相続手続き」が待っています。
本記事では司法書士・行政書士の視点から、相続があった際の手続きの流れや注意点を解説します。
まさに問題に直面している方、将来に備えて準備をしておきたい方はぜひ参考にして下さい。
1.相続って何?基本から分かりやすく解説
相続を簡単に言うと「亡くなった方の資産・負債を引き継ぐ」ことです。ただし、誰が、いつ、どれだけ引き継げるのかなどは法律で細かく定められています。まずは、相続の定義、相続開始のタイミング、相続する財産について基本から解説していきます。
⑴相続の定義とは?
まず、大事な用語を4つ押さえておきましょう。
被相続人…亡くなってしまった方を指します。
相続人…被相続人から権利義務を引き継ぐ方を指します。
権利…預貯金や不動産の所有権などプラスの財産。
義務…債務などのマイナスの財産。
その上で民法では相続について次のように定めています。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
(民法896条)
この条文から、相続の定義とは「人(被相続人)の死亡により、プラス財産、マイナス財産の全てを新たな人(相続人)が引き継ぐこと」と言えます。
⑵相続人とは具体的に誰のこと?
民法886条から890条で相続人の範囲・順位が定められていますが、まとめると以下のようになります。
第1順位:子供
第2順位:直系尊属(父母や祖父母など)
第3順位:兄弟姉妹
常に相続人:配偶者
被相続人に子供がいれば子供が、子供がいなければ直系尊属が、直系尊属もいない場合には兄弟姉妹が相続人になり、配偶者はこれらの者の有無に関わらず常に相続人になります。
上記が基本的な相続人の範囲ですが、何点か細かい規定が設けられています。
子供について
被相続人よりも子供(相続人)が先に亡くなっていた場合は子供の子供(被相続人の孫)が相続人になり、孫も先に亡くなっていた場合は更にその子供(被相続人のひ孫)が相続人になります。これを代襲相続といい、被相続人の直系卑属(被相続人の下の世代の血族)がいる限り、どれだけ下の世代(玄孫など)でも代襲相続をする事が出来ます。
兄弟姉妹について
子供の場合と同様、被相続人より先に兄弟姉妹(相続人)がなくなっていた場合は兄弟姉妹の子供(被相続人の甥・姪)が代襲相続人となります。ただし、直系卑属の場合と異なり、代襲相続人となれるのは兄弟姉妹の子供までであり、兄弟姉妹の孫以下は代襲相続人となることは出来ません。
胎児について
民法886条で「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」とされています。夫婦の間に子供ができ、出産前に旦那が亡くなった場合、妻と胎児が相続人になるということになります。
胎児が相続人にならないと、旦那の遺産は妻と旦那の直系尊属、又は妻と旦那の兄弟姉妹で相続する事になり、母子の生活の保護が不十分になってしまうために設けられた規定です。
以上の法律で定められた相続人の事を「法定相続人」といいます。
⑶相続はいつ始まるの?
民法882条で「相続は、死亡によって開始する。」と定めており、被相続人が死亡した時に相続が始まることになります。
では、死亡した時とはいつの事でしょうか?
病気や交通事故など医師が死亡を確認した時には死亡の時が問題となる事は少ないと思いますが、死亡の時が明らかでない事もあります。
死亡の時が明らかでない場合、 一定の要件を満たした時点で「死亡したものとみなす」という制度があり、これを失踪宣告といいます。
具体的に次の二つの場合があります。
普通失踪:不在者の生死が7年間明らかでないとき
特別失踪:戦地に挑んだ者、沈没した船に乗船していた者、その他死亡の原因となる危難に遭遇した者の生死が、
その危難の去った後1年間明らかでないとき
上記2つの場合には家庭裁判所が失踪宣告をすることで、これらの者は死亡したものとみなされ相続が開始します。ただし、死亡したものとみなすか否かは遺族の気持ちによるので、遺族などの利害関係人の請求が必要です。
⑷相続財産とは
⑴「相続の定義」でも触れましたが、相続財産にはプラスの財産(積極財産)、マイナスの財産(消極財産)を含め被相続人の一切の権利義務を承継します。
ここでは積極財産、消極財産の代表例を挙げていきます。
積極財産
・現金、預貯金
・動産(自動車、家財、貴金属など)
・不動産(土地・建物、借地権、借家権など)
・債券(有価証券、貸付金、売掛金など)
消極財産
・負債(借金、保証債務、買掛金など)
・未払税金(所得税、住民税、固定資産税などの未払分)
・未払費用(家賃、敷金返還債務、医療費、介護費などの未払分)
ただし、相続財産について民法896条は「被相続人の一身に専属したものはこの限りでない。」と定め、一定の権利は相続財産に含まれないとしています。
一身に専属した権利とは、その性質上、特定の個人だけが持つことができる権利であり、具体的には以下のような権利です。
一身専属権
・定期贈与の当事者の地位
・使用貸借の借主の地位
・扶養義務
・身元保証債務
・生活保護の受給権
・労働者としての地位 など
2.相続手続きの具体的な流れは?
ここまでは相続に関する言葉の意味、制度の概要を説明してきました。
ここからは人の死亡から相続が完了するまでの手続きについて概要を見ていきたいと思います。
人が亡くなると、相続に関係しない手続き、相続に関する手続きを含め様々な手続きが必要となりますが、ここでは主に相続手続きについて流れに沿って解説します。
⑴相続の開始(死亡届の提出)
被相続人が亡くなったら、まず「死亡届」を提出しなければなりません。
期限は「死亡を知った日を含めて7日以内」です。
死亡届と一緒に、医師が作成した「死亡診断書」または「死体検案書」を添付します。
通常は、医師が記入した死亡診断書(又は死体検案書)を病院から渡されますので、この書面に届出人が必要事項を記載し役所に提出します。
⑵遺言書の有無の確認
ここまで相続について解説をしてきましたが、遺言がある場合は遺言が優先されます。遺言は「故人の最後の意思表示」であるため、法定された相続手続きよりも尊重されるべきだからです。
そして民法985条は「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」と定めています。
したがって、遺言の有無を確認することが最優先であり、遺言がない場合に法定の相続手続きに移ります。
自宅や金融機関の金庫、机の引き出しや仏壇など、遺言が保管されていそうな箇所は念入りに確認しましょう。
また、令和2年7月から「自筆証書遺言保管制度」が開始されました。
自宅等で遺言書を保管することによる遺言書の改ざん、紛失、発見されない恐れなどの問題を解消するため、法務局で遺言書を保管する制度です。
法務局において遺言者の死亡を確認できた時に、遺言者が指定した方へ、遺言書が保管されている旨が通知されます。
自宅に遺言書が無くても、法務局に保管されている可能性があるという事も知っておきましょう。
なお、自宅等で自筆証書遺言を発見しても、遺言書の開封は家庭裁判所で行わなければなりません。
これを検認手続きといい、これに反して開封をした場合は5万円以下の過料に処される可能性があるので注意して下さい。
⑶相続人の確定
被相続人が死亡し、遺言書も存在しない場合、法定相続人による相続手続きへ移ります。
法定相続人とは「相続人とは具体的に誰のこと?」で述べた通りですが、その確定作業が大変な関門になります。
具体的には戸籍によって相続関係を証明することになりますが、基本的な戸籍の知識がないと、戸籍の集め方すらわからない状況に陥ってしまいます。
日本人は、出生により父母の戸籍に入籍し、婚姻によりその戸籍から除籍され、新たに編成された戸籍に入籍します。
また、本籍を他の市区町村へ移すと(転籍)、転籍先の市区町村に新たな戸籍が編製されます。
このように、一生の間に数通の戸籍が編製されることになるので、1通の戸籍に全ての身分事項が記載されている訳ではありません。
また、戸籍は時代の変遷とともに何度か作り直しが行われてきました(戸籍の変遷)。
そのため、被相続人の「最後の戸籍」だけでなく、「作り直される前の戸籍」も集めなければ相続人全員を確定できない内容になっています。
令和6年3月より戸籍の広域交付制度が始まり、被相続人の出生から死亡までの戸籍の収集は以前より楽になりました。
ただし、この広域交付制度で取得できるのは「直系血族(親、祖父、子供、孫など)」の戸籍だけです。
被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者が相続人になるケース等では、今まで通り全国それぞれの本籍地へ個別に戸籍を請求しなければならず、大変な作業になります。
⑷相続財産の調査・評価
相続財産の種類は「相続財産とは?」で述べた通りですので、ここではそれぞれの財産の調査方法を解説します。
預貯金
被相続人が残した預貯金通帳、キャッシュカード等から取引のあった金融機関を洗い出します。
また、取引のあった金融機関から他の金融機関への送金等が確認できる場合もあります。
これらの金融機関へ「残高証明書」の発行を依頼します。
不動産
不動産の所有権は、各市区町村発行の「固定資産税・都市計画税通知書」・「名寄帳」、自宅等に保管されている「権利証」・「登記識別通知書」を基に調査します。
名寄帳は市区町村ごとに被相続人が所有していた不動産が一覧(名寄せ)となるため、名寄帳による調査は市区町村ごとに行う必要があります。
債券
証券会社で管理されている上場株式や投資信託については、証券会社に対して「残高 証明書」の発行を依頼します。
未上場会社の株式については、当該会社に対して「株主名簿記載事項証明書」の発行を依頼します。
⑸相続をするのかどうか
ここまで相続の手続きについて解説をしてきましたが、そもそも相続は「しなければならない」ものではありません。
被相続人が残した負債を相続人が絶対に引き継がなければならない訳ではありません。
ここで、相続の「承認」および「放棄」について解説します。
相続放棄
民法915条は「相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続について・・・放棄をしなければならない」と定めています。
そして民法939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定めています。
したがって、被相続人の負債を相続したくない場合には相続放棄をすることで、債務から逃れることが出来るのです。
なお、「3か月以内に」というのは相続財産の調査・評価をするための熟慮期間と言われています。
資産・負債ともに多く、3か月で足りない場合には熟慮期間の伸長を請求することが出来るとされています(民法915条)。
限定承認
同じく民法915条は「相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続について・・・限定の承認をしなければならない。」と定めています。
これは、本来相続人は相続債務について無限責任を負いますが(相続人の固有の財産を売ってでも相続した債務全額を弁済しなければならないといこと)、債務の過大な負担から相続人を守るために、相続財産の限度で有限責任を負うという承認方法です。
債務も相続はするが、相続人固有の財産に強制執行(競売など)はされないということになります。
プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか分からない時などが想定されますが、限定承認は3か月の熟慮期間中に相続人全員で申し立てをしなければならない点に注意が必要です。(⇔相続放棄は相続人ごとに可能です)
単純承認
相続放棄、限定承認もしなかった場合には単純承認となり、被相続人の権利義務を無限に相続します。
なお、3か月の熟慮期間中であっても、相続財産を処分等(売却など)した場合には単純承認したものとみなされるので注意が必要です(民法921条)。
⑹相続財産の分け方
「遺言書はないか」で述べた通り、遺言書がある場合は財産の分け方も遺言書の内容が優先されますが、遺言書が無い場合も多く、このような場合に備えて法律の規定による法定相続分が定められています。
法定相続分は以下の通りです(民法900条)。
①子と配偶者が相続人であるとき:子2分の1 配偶者2分の1
②直系尊属と配偶者が相続人であるとき:直系尊属3分の1 配偶者3分の2
③兄弟姉妹と配偶者が相続人であるとき:兄弟姉妹4分の1 配偶者4分の3
※被相続人がいつ亡くなったかにより適用される法定相続分が異なる事があります。
ただし、遺産分割協議で相続人の全員が合意をすれば、合意内容に従って相続財産を分けることができます。合意内容に決まりは無いので、相続人の1人が全て相続することや、特定の財産ごとに分け方をきめる事も可能です。
ここまで完了してやっと、各遺産の分配、名義変更となります。
3.さいごに
いかがでしたでしょうか?
今回は相続手続きの全体像を司法書士・行政書士の視点から解説しました。
「相続」という言葉は良く聞きますが、その中身、手続きは非常に細かいルールが多くあります。
身近な方が亡くなり悲しみに暮れる中、時間に追われながらこれらの手続きまで行うのはとても大変な事だと思います。
相続手続きは一生の間に数回あるか無いかの手続きですので慣れている方などほとんどいないと思います。
相続手続きでお困りでしたら、当事務所までお気軽にご相談下さい。
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相続の概要を確認!将来のために基本知識を!
この記事を書いた人 Wrote this article
中村直人
島根県松江市を拠点に、司法書士・行政書士事務所を営んでおります。公式HPでは書ききれない、一歩踏み込んだ専門情報を発信していきたいと思います。地元の皆様の身近な相談役を目指し日々精進していきますので、どうぞ宜しくお願い致します